帳簿書類を備える義務は誰にあるか
建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)は、興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場・店舗・事務所・学校教育法第1条の学校等以外の学校(研修所を含む)・旅館の用途に使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建物と、専ら学校教育法第1条の学校等(幼保連携型認定こども園を含む)に使う延べ面積8,000平方メートル以上の建物を「特定建築物」としています(法第2条、施行令第1条)。特定建築物の所有者・占有者など維持管理について権原を持つ人は、建築物環境衛生管理基準に従って維持管理しなければなりません(法第4条第1項)。
法第10条は、特定建築物の所有者(全部の管理について権原を持つ人がいればその人。法律では「特定建築物所有者等」)に対して、維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類を備えておくことを求めています。清掃や設備の点検をビルメンテナンス会社に委託していても、帳簿を備える義務は所有者等の側にあります。委託を受けた会社は、所有者等がそのまま帳簿に綴じられる形で、測定や点検の結果を渡すことが仕事の一部になります(これは法令の義務ではなく、実務の分担です)。
帳簿書類を備えていない、記載をしていない、虚偽の記載をした場合は、30万円以下の罰金の対象になります(法第16条第3号)。都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)は、職員(環境衛生監視員)を特定建築物に立ち入らせ、帳簿書類を検査させることができます(法第11条、施行規則第21条)。
清掃や点検を委託されたビルメンテナンス会社は、測定や点検の結果を、所有者等がそのまま帳簿に綴じられる形で渡します。これは法令の義務ではなく実務の分担です。帳簿書類を備える義務は、委託していても特定建築物所有者等にあり、測定・点検などの記録は5年間保存します(法第10条、施行規則第20条)。都道府県知事など(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)は、職員を立ち入らせて帳簿書類を検査させることができます(法第11条)。
備える帳簿書類の4種類と保存期間
施行規則第20条第1項が定める帳簿書類は次の4種類です。保存期間が法令で決まっているのは第1号と第4号の5年間(同条第2項)で、図面や兼任の確認の書面は施行規則に年数の定めがなく、自治体の案内で「永年」「兼任している間」などと示されています(下の表は横浜市の案内の例)。
| 号 | 帳簿書類 | 主な中身 | 保存期間 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 維持管理の状況を記載した帳簿書類 | 空気環境の調整、給水と排水の管理、清掃、ねずみ等の防除の状況。測定・検査の結果と、設備の点検・整備の状況を含む | 5年間(規則第20条第2項) |
| 第2号 | 図面 | 建物の平面図・断面図、維持管理に関する設備の配置と系統を明らかにした図面 | 法令に年数の定めなし(横浜市の案内では永年) |
| 第3号 | 管理技術者の兼任の確認の書面 | 建築物環境衛生管理技術者が2つ以上の特定建築物を兼ねても業務に支障がないことの確認の結果(他の維持管理権原者の意見を聴いた場合はその内容) | 法令に年数の定めなし(横浜市の案内では兼任している間) |
| 第4号 | その他の帳簿書類 | そのほか維持管理に関し環境衛生上必要な事項 | 5年間(規則第20条第2項) |
第1号の帳簿に載せる記録の例
第1号の帳簿は、施行規則が定める点検・測定・清掃の周期ごとに、実施した日と結果が追えるように作ります。主なものと周期は次のとおりです(いずれも施行規則の条文の周期)。空気環境の測定の基準値と方法、給水・排水・清掃・防除の周期の細かい区分(水源による違い、雑用水など)は、同じシリーズの解説で扱っています。
| 区分 | 記録すること | 周期(施行規則) |
|---|---|---|
| 空気環境 | 浮遊粉じん・一酸化炭素・二酸化炭素・温度・相対湿度・気流の測定結果 | 2月以内ごとに1回(第3条の2) |
| 空気調和設備 | 冷却塔・加湿装置・排水受けの汚れの点検と清掃 | 点検は1月以内ごと、冷却塔・冷却水の水管・加湿装置の清掃は1年以内ごと(第3条の18) |
| 飲料水 | 遊離残留塩素の検査、水質検査、貯水槽の清掃 | 残留塩素は7日以内ごと、水質検査は6月以内ごとほか、貯水槽の清掃は1年以内ごと(第4条) |
| 排水 | 排水に関する設備の掃除 | 6月以内ごとに1回(第4条の3) |
| 清掃 | 日常の清掃と大掃除 | 大掃除は6月以内ごとに1回(第4条の5第1項) |
| ねずみ等の防除 | 発生場所・侵入経路・被害の調査と、その結果に基づく措置。薬剤を使った場合はその記録 | 6月以内ごとに1回(第4条の5第2項) |
届出と建築物環境衛生管理技術者の選任
帳簿とあわせて押さえておきたいのが、届出と管理技術者です。特定建築物が使われ始めたときは、その日から1か月以内に、名称・所在場所・用途・延べ面積・構造設備の概要・建築物環境衛生管理技術者の氏名などを都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)に届け出ます(法第5条第1項、規則第1条)。使用中の建物が用途の変更や増築で新たに特定建築物に当たることになったときも、同じく1か月以内に届け出ます(法第5条第2項)。届け出た事項が変わったときや、用途の変更などで特定建築物でなくなったときも、1か月以内に届け出ます(法第5条第3項)。
建築物環境衛生管理技術者は、特定建築物ごとに免状を持つ人から選任します(法第6条、規則第5条第1項)。2つ以上の特定建築物を兼ねるときは、業務の遂行に支障がないことを所有者等が確かめる必要があり(規則第5条第2項・第3項)、その確認の結果が第3号の帳簿書類になります。この兼任の扱いは、2021年12月24日公布・2022年4月1日施行の政省令改正で、それまでの距離や用途などの要件から「支障がないことの確認」に改められたものです。
- 使用開始の届出は、使用開始の日から1か月以内
- 用途の変更・増築などで新たに特定建築物に当たったときも、1か月以内
- 届出事項の変更・特定建築物に該当しなくなったときも、1か月以内
- 管理技術者は特定建築物ごとに選任し、兼任するときは支障がないことの確認を書面で残す
日報・点検表から帳簿を作るときの手順
ビルメンテナンスの現場では、清掃の日報、設備の点検表、測定の記録票、協力会社の作業報告が別々の紙や表計算で集まり、月末や立入検査の前に帳簿へ書き写す作業が発生しがちです。転記のたびに日付や数値の写し間違いが起きるため、最初から帳簿の項目に合わせて記録を集める流れにしておくと、点検漏れにも早く気づけます。
- 物件ごとに、施行規則の周期(7日・1月・2月・6月・1年以内ごと)で点検と測定の年間計画を作る
- 計画の各回について、次の期限の日付を決め、担当者(自社・協力会社)を割り当てる
- 現場では日報や点検表に、実施日・実施者・測定値・異常の有無・とった措置をその場で記入する
- 記入した値を、第1号の帳簿の区分(空気環境・給水・排水・清掃・防除)ごとにまとめる
- 基準を外れた値や未実施の回があれば、原因と対応を同じ帳簿に書き添える
- 所有者等へ月ごとに報告し、所有者等の側で5年間保存できる形(紙または電子の控え)で渡す
よくある質問
帳簿書類は電子データで作成・保存してもよいですか。
できます。厚生労働省は2021年12月27日の通知(生食発1227第1号)で、施行規則第20条第1項の帳簿書類は、e-文書法と厚生労働省の省令(平成17年厚生労働省令第44号)により、書面に代えて電磁的記録で作成・保存できると示しています。電子で保存する場合は、必要なときに直ちに画面に表示し、書面に印刷できる状態にしておく必要があります(同省令第4条)。
特定建築物に当たらない建物でも帳簿は必要ですか。
帳簿書類の義務(法第10条)は特定建築物の所有者等が対象です。ただし、特定建築物以外でも多数の人が使う建物は、建築物環境衛生管理基準に従った維持管理に努めることとされています(法第4条第3項)。記録を残しておくと、管理の状況を説明しやすくなります。
保存期間の5年はいつから数えますか。
施行規則第20条第2項は「五年間保存しなければならない」と定めていますが、起算日は条文に書かれていません。どの記録も5年を下回ることがないよう、年度などの区切りでまとめ、最後の記録の日から5年を過ぎるまで残しておくと安全です。扱いに迷う場合は所管の保健所に確かめてください。

